米国におけるレジリエンス・アクティブデフェンス
実戦経験と資本が必要である市場の構造分析
はじめに:非対称戦への戦術の変遷構造
本稿では、レジリエンス・アクティブディフェンス領域に焦点を当て、米国企業の動向を整理します。分析の視点として、第一にExit及び資金調達の状況、第二に主要投資家の動向、第三に創業者のバックグラウンドパターンを検討します。これらの分析に先立ち、本稿におけるレジリエンス・アクティブディフェンスの定義と領域設定について説明いたします。
本稿におけるレジリエンス・アクティブディフェンスとは、攻撃に対する能動的な防御、すなわちカウンターディフェンスを指します。従来型の防衛では、ミサイルに対してミサイルで迎撃するといった対称的な手段が主流でしたが、近年の戦闘様態において注目されているのは非対称戦への対応です。具体的には、ドローン攻撃に対してレーザーやジャミング技術を用いて無力化する手法や、相手の戦闘装備に対して小型ドローンによる攻撃を行う手法などが挙げられます。こうした非対称的な防衛手段は、新興の防衛テック企業によって実証・実装が進められており、従来の大型兵器システムとは異なるアプローチによる防衛能力の構築が図られています。本稿では、こうした能動的防御技術を提供する米国企業の動向を分析対象とします。
米国市場① 資金調達規模とExit状況:成長初期段階にある新興市場
レジリエンス・アクティブディフェンス領域において、JDTI調査対象の12社のうちExit実績を持つのは1社のみです。対ドローンシステムを開発するBlueHaloがAeroVironmentに約6,314億円で買収された事例が唯一の実績であり、この領域は今後のExit創出が期待される段階にあると考えられます。
資金調達の状況を見ると、12社のうち半数に当たる6社がすでに100億円以上の調達を実現しており、資本集約性の高さが確認されます。調達ステージ別では、Series Cが4社と最も多く、次いでSeries Dが3社、Series Aが2社、Series Bが1社という構成です。残る1社はステージが不明です。注目すべき点として、1社を除く11社が直近5年以内に資金調達を行っており、この期間に集中的な投資活動が行われていることが確認されます。この傾向は、非対称戦への対応技術に対する市場の関心が近年急速に高まっていること、また技術実証から実装段階への移行が進んでいることを示唆していると考えられます。Exit実績が限定的である一方で後期ステージ企業が複数存在することは、今後数年内に複数のExit事例が創出される可能性を示唆ているのではないかと考えています。
米国市場② Top Tier VCの投資動向:防衛テックに関心があるVCの出現
この領域において、Top Tier VCは12社のうち5社に出資しています。投資件数が最も多かったのはBessemer Venture Partnersで、Turbine OneとBastilleの2社に投資を行っています。その他、AccelとNew Enterprise AssociatesがChaos Industriesへ、General CatalystがAurelius Systemsへ、Kleiner PerkinsとSalesforce VenturesがSecond Frontへそれぞれ出資しています。
Top Tier VCだけでなく、防衛テック特化型の8VC、Silent Ventures、Overmatch Ventures、Alumni Ventures、RTX Ventures、Lockheed Martin Venturesもこの領域に参入しています。8VCは3社(Epirus、Chaos Industries、Second Front)に投資を行っており、防衛テック特化型投資家の中で最も多い投資件数となっています。特筆すべき事例として、8VCが投資するEpirusとChaos Industriesは、いずれも元8VCのパートナーが共同創業者として関与しています。この構造は、VC出身者による起業と投資の循環が形成されつつあることを示しており、投資判断において技術的専門性と人的ネットワークが重視されていることを示唆していると考えられます。なお、8VCと創業者の関係性についての詳細は、JDTI Insights米国・NATO編において記載しておりますので、ご関心のある方はご参照ください。
米国市場③ 創業者のパターン:実戦経験と事業構築力の重視
レジリエンス・アクティブディフェンス領域において、創業者の傾向として特筆すべき点が2つあります。第一に、シリアルアントレプレナーの割合が高いこと、第二に、米軍出身者(特に海軍出身者が共同創業者として4社に関与)が多く見られることです。
米軍出身者が多い理由としては、実戦環境において対ドローン、対ミサイル、電子戦といった非対称戦の脅威に直面した経験を持ち、現場レベルでの具体的な課題と必要とされる解決策を理解している点が挙げられます。また、顧客である軍の調達プロセスや要求仕様への理解、軍内部での人的ネットワークは、政府契約獲得において重要な優位性となり得ると考えます。一方、シリアルアントレプレナーの参入が多い理由としては、この領域が資本集約的であり、技術開発から実証、政府契約獲得までに長期間を要する点が挙げられます。特に防衛テック領域では、技術開発完了後から実際の調達・配備までの間に資金が枯渇する「死の谷」と呼ばれる期間が存在します。シリアルアントレプレナーは投資家との信頼関係や資金調達ネットワークを活用でき、政府契約プロセスへの対応力も持つため、この死の谷を乗り越える上で優位性を持つと推測されます。こうした創業者パターンは、レジリエンス・アクティブディフェンス領域が実戦経験に基づく課題理解と長期的な事業構築力の両方を必要とする市場であることを示唆しています。
*本稿で記載している企業数はすべてJDTI調べであり、可能な限り網羅的な調査を行っていますが、市場の動きが速いこの分野においては、すべての企業を捕捉できているとは限らない点にご留意ください。また、もし誤りや漏れなどを発見された場合は、ぜひご指摘いただけますと幸いです。皆様からのフィードバックを今後の調査・分析の改善に活かしてまいります。