NATOにおけるレジリエンス・アクティブデフェンス

米国との環境的背景の違い

はじめに

本稿では、NATO諸国におけるレジリエンス・アクティブディフェンス領域に焦点を当て、企業の動向を整理します。分析の視点として、第一に米国との市場成熟度の差異、第二に成長ステージと投資家構成の比較、第三に創業者のバックグラウンドにおける相違点を検討します。これらの比較分析を通じて、米国とNATO諸国における防衛テック・エコシステムの構造的差異を明らかにします。

米国との比較① 市場成熟度の差異:今後の市場発展の可能性

米国市場とNATO市場の差異は、市場成熟度にあると考えられます。米国では12社のうち1社(BlueHalo、約6,314億円でAeroVironmentに買収)がすでにExitを実現し、後期ステージ企業が多数存在します(Series C: 4社、Series D: 3社)。一方、NATO諸国ではExit実績を持つ企業は存在せず、全7社がPre-SeedからSeries Aの初期ステージにとどまっています。

この差異の背景には、2つの構造的要因が考えられます。第一に、資金調達規模の違いです。米国では12社中6社が100億円以上を調達しているのに対し、NATO諸国では7社中1社(Cambridge Aerospace 154億円)にとどまっています。第二に技術開発の焦点が異なります。米国ではレーザー、ジャミング、小型ドローンなど多様な技術アプローチが進められているのに対し、NATO諸国ではC-UAS(対ドローン用ドローン)5社、小型ミサイル2社と、より限定的な技術分野に集中しています。この集中は、地域紛争を通じて顕在化した具体的な脅威(Shahed型攻撃ドローン、Orlan偵察ドローン等)への即応的な対処を優先した結果である可能性があると推測されます。

米国市場② 創業者の視点:デュアルユースとしての防衛

投資家構成においても、米国とNATO諸国では顕著な差異が確認されます。米国ではTop Tier VCの参入率が約42%(12社中5社)であるのに対し、NATO諸国では約14%(7社中1社、Cambridge Aerospace)にとどまっています。一方で、NATO諸国では防衛特化型VCであるLakestarが2社(Cambridge Aerospace、Tytan Technologies)に投資を行っており、地域特化型の投資家が一定の役割を果たしています。

米国との比較③ 創業者のバックグラウンド:政府関係者が民間へ

創業者のバックグラウンドにおいても、両地域では共通点と相違点が確認されています。共通点として、両地域ともシリアルアントレプレナーの創業者が多い点が挙げられます。一方、相違点として、米国では軍出身者(特に海軍)が多いのに対し、NATO諸国では政府関係者が創業者となるパターンが目立っています。具体的には、米国ではシリアルアントレプレナーと米軍出身者の組み合わせが主流である一方、NATO諸国では防衛・政府関連出身者(元英国防大臣、エストニア国防省事務次官など)2社、シリアルアントレプレナー5社という構成となっています。この違いの背景には、NATO諸国において防衛能力強化が国家的緊急課題として位置づけられており、政策立案に携わってきた人材自身が民間セクターに移行し、解決策の実装を主導している構造があると考えられます。

最後に:レジリエンス・アクティブディフェンスの定義

レジリエンス・アクティブディフェンスの定義を行います。レジリエンス・アクティブディフェンスとは、攻撃に対する能動的な防御、すなわちカウンターディフェンスを指します。従来型の防衛では、ミサイルに対してミサイルで迎撃するといった対称的な手段が主流でしたが、近年の地域紛争や安全保障環境の変化を背景に、非対称戦への対応が重視されるようになっていると考えられます。NATO加盟国においても、2022年以降のウクライナ情勢等を通じて、低コストかつ大量に投入される小型無人機(ドローン)への対処や、電子戦・サイバー攻撃といった新たな脅威に対する防衛能力の強化が政策上の優先課題として位置づけられています。具体的には、ドローン攻撃に対してレーザーやジャミング技術を用いて無力化する手法や、小型ドローンによる相手の戦闘装備への攻撃などが挙げられます。こうした非対称的な防衛手段は、新興の防衛テック企業によって実証・実装が進められており、従来の大型兵器システムとは異なるアプローチによる防衛能力の構築が図られていると推測されます。

*本稿で記載している企業数はすべてJDTI調べであり、可能な限り網羅的な調査を行っていますが、市場の動きが速いこの分野においては、すべての企業を捕捉できているとは限らない点にご留意ください。また、もし誤りや漏れなどを発見された場合は、ぜひご指摘いただけますと幸いです。皆様からのフィードバックを今後の調査・分析の改善に活かしてまいります。