自律システム・オペレーションとは
無人アセットから読み解く米国防衛テック状況

非対称戦への着目:質と量の戦略構造

現在、防衛戦略において「非対称戦」という言葉をよく目にするようになったと考えられます。非対称戦とは、できるだけ安価な手段で高価なものに対抗するという方法を指します。従来、防衛においてはミサイルに対してはミサイルで対抗する手段がとられていたのに対し、現在は敵方の攻撃用ドローンに対してミサイルで防衛するという対抗手段へシフトしていると考えられます。このシフトは防衛予算の配分に深刻な圧迫をもたらしていると推測されます。例えば、ウクライナ戦闘においては、巡航ミサイルが1発あたり約200万ドルの費用を要するのに対し、ドローンスウォームは2,000ドル程度の部品で構成可能であり、安価なドローンが高度で高額な迎撃システムを繰り返し消耗させる事例が観察されています。このような費用対効果の構造的逆転が、次世代の防衛装備品の開発方向に根本的な転換をもたらす可能性があり、無人アセット統合プラットフォームへの投資集中につながっていると考えられます。

米国市場① 無人アセットに投資するVC:トップティアVCの参入

このような市場環境の変化を背景として、米国において自律システムオペレーション領域の防衛テック企業が注目を集めるようになったと考えられます。Anduril、Saronic、Shield AIは、この領域において代表的な企業として位置づけられており、いずれも無人アセット(ドローン、無人艇など)の統合制御プラットフォームを開発・商用化していると言えます。一般的には防衛テック領域には民間からの資金が集まりにくいという印象が存在する可能性があります。しかし、JDTIの調査対象である自律システムオペレーション企業21社の資金調達実績を検証すると、実態は異なるのではないかと考えられます。Andreessen HorowitzやFounders Fundといった一流のVCから資金調達を行っている企業が数多く存在しており、このうち9社は既に累計100億円以上の資金調達を完了していると認識されます。さらに注目されるべきは、最新の資金調達が2022年5月から2025年12月まで継続しているという点です。これは市場がまさに活発な成長局面にあること、および将来性に対する投資家の確信が揺らいでいない可能性を示唆していると言えます。

米国市場② 創業者の視点:デュアルユースとしての防衛

では、このような成長を支えている企業の創設者には、どのような背景を持つ人物が多いのでしょうか。JDTIにおける調査によると、創業者の構成は明確なパターンを示していると考えられます。自律システム・オペレーションでは、エンジニア出身が最も多く、次に軍人経験者、そして最後にシリアルアントレプレナーという順序であると推測されます。エンジニアが最も多い傾向は、多くの企業が既存の技術領域での知見を防衛用途に応用するデュアルユース戦略(商業技術開発で得た知見を防衛技術に応用する)を採用していることを反映しているからではないかと考えられます。このアプローチにおいて、既存技術の応用と実戦ニーズの統合が、防衛テック企業の競争優位をもたらす可能性があると考えられます。

米国市場③ 成熟領域:ユニコーンを超える自律システム・オペレーション分野

これらの企業が単なるスタートアップ段階にとどまらず、実質的な事業としての評価を受け始めていると推察されます。それが、Exit事例の増加です。JDTIの調査対象21社のうち6社がExit(企業売却または上場)を経験しており、そのうち2社がIPO、4社がM&Aされています。特にIPOした企業の評価額は2,000億円を超えるものも存在し、市場がこの領域に対して長期的な成長性を認識している可能性があると言えます。このようなExit市場の成熟は、将来における資金調達の容易さ、投資家の信頼醸成、および人材獲得競争の激化をもたらす可能性があります。つまり、自律システムオペレーション領域は、単なる新興市場ではなく、次世代防衛システムの構造的な変化に対応しつつある市場として確立されつつあると考えられます。

*本稿で記載している企業数はすべてJDTI調べであり、可能な限り網羅的な調査を行っていますが、市場の動きが速いこの分野においては、すべての企業を捕捉できているとは限らない点にご留意ください。また、もし誤りや漏れなどを発見された場合は、ぜひご指摘いただけますと幸いです。皆様からのフィードバックを今後の調査・分析の改善に活かしてまいります。